それでも僕はタクシーを走らせる

昨年からのコロナ禍で、タクシー業界も大きな影響を受けています。

度重なる緊急事態宣言、利用者の減少に対して、タクシー会社は雇用調整助成金を利用してタクシーの稼働を減らしてしのいでいるのが現状です。夜間を休業として半休業としたり、基本12出番ある勤務数の内、3出番を休業とする会社もあります。休業中は休業手当が支給されますが、コロナ以前の給料よりも少ない事が通常です。

残念ながら利用者数は戻らない

いつになったら以前のような稼ぎに戻るのかと考えているタクシー運転手も多いと思います。ワクチン接種が進めば、以前のような働きかたに戻るのでは無いかという望みも、少なからずあります。

しかし、コロナが収束したとしても、タクシー業界には残念ながら以前のような需要が戻ってくる事は無いのではないかと私は考えています。

需要が減るとすると、タクシー1台あたりの売上が減ります。その時、タクシードライバー1人あたりの収益を確保するためには、タクシーの稼働台数を減らさざるを得なくなります。

タクシーの稼働台数が大きく減るような業界の変化が起こるでしょう。

特に東京23区を営業区域としているタクシーについては、元通りにはならない、そう考える理由をこの記事で考えていきたいと思います。

いま起こっている変化

これまで、取引先との打ち合わせで、客先まで出向いて会議していたのが、zoom会議に切り替わってきています。

お客様との会議がWeb会議ならば、出勤もしなくて済む。

そうすれば、タクシーを使って駅まで、もしくは職場まで行く事もなくなります。

会社の同僚やお客様と夜遅くまで仕事をして、帰りに一杯やって、終電や終バスを逃す、そうやってタクシーを利用していた人たちが、タクシーを使わなくなっています。出勤していないのだから、そのような機会も減ります。

リモート会議はコロナ前から行われていた

アメリカの企業では、国土が広い事もあって、早い時期からオンライン会議は当たり前でした。プロジェクトのメンバーが、飛行機で数時間かかるような離れた地域にいて、一度も直接合わないまま、電話会議で仕事をするなんてこともあると聞いたことはあります。

また、日本の企業でも、海外にコールセンターを置いたり、沖縄や人件費の安い海外に事務処理のリモート拠点を置いたりという事はすでに行なわれていました。

そのように、離れた場所で仕事をするための動きは、情報通信技術の発達に伴って着々と進んでいたのです。

テレワークは企業のコスト削減にもつながる

企業としては、できるだけ固定費を減らしたいと考えます、最も大きな固定費がオフィスの地代家賃です。IT活用の得意な企業は、すでに10年前からリモートワークを推進しています。特に営業職の職員については、会社のメールをスマホで見れるようにし、ノートPCやタブレットを持たせ、Webでの会議をできるようになっています。

会社に出勤しても、固定の自分のデスクは無く、6人掛けの大きなテーブルで仕事をするという風景が普通になっていました。

こうなってくると、一人一人のデスクを用意するよりも、社員一人あたりのオフィススペースは格段に少なくなります。

企業内だったリモートワークが、企業同士や企業と顧客まで広がる

オフィスの面積を減らすという企業側のメリットがありましたが、まだ社会全体としてリモートワークは浸透していませんでした。

大きな企業では、営業所が離れていたり、地方のお客様先にいる社員と、離れた拠点にいる同じ会社の社員どうしでリモート会議をするという事は進んでいたものの、お客様や取引先がリモート会議に対応していない事も多かったため、顧客や協業相手とは実際に会って会議や商談をするという事が必要でした。

リモートワークはコロナの問題で一気に加速されることになり、お客様相手でもリモートで会議を済ませるというのが、一般的なものになりはじめています。

コロナで減ったタクシーのお客様はもう戻ってこない

やってみたらリモート会議でもできた、という事になれば、このやり方でビジネスをすることが普通になります。

リモートワーク推進のために、政府や自治体の支援もあり、企業はノートパソコンや通信手段の整備に投資しました。リモートでも仕事ができるとなれば、企業としてはもとに戻す理由はありません。着々とオフィスを減らし、固定費を削減する方向に進むのが普通の考え方でしょう。

残っているのは、

  • お年寄りが病院へ行くとき
  • 保育園にこどもを送り迎えするとき
  • 冠婚葬祭
  • たまに出勤したとき

ワクチン接種の希望と神の見えざる手による需給の調整

テレワークの普及で、普段からタクシーを利用していた機会が減り、確かに全体の需要は減ると私は考えています。しかし、ワクチン接種が進めば、飲み会が以前のようにできるようになって、夜のタクシー需要は少しずつ回復していくことも考えています。

時間はまだかかるかもしれませんが、これまでやっていたタクシー運転手も減少します。すると需要と供給がちょうどよいところで釣り合い、どこかでタクシー1台当たりの売上が安定することになってくるという希望を持ってもよいのではないでしょうか。

ドライバーとして気になるのは、自分の給料だと思います。

手取り月収が30万円を下回ると、家族を持っている大黒柱としてこの仕事を続けるのは難しいでしょう。なので、そういうドライバーは離れ、安い給料でも働きたい人の採用をタクシー会社は行います。そうやってドライバーの平均収入が減っていくという事が考えられますが、平均収入が減るという事はタクシー1台当たりの売り上げも減るという事です。

タクシー1台あたりの売上が一定の金額を下回る場合、タクシー事業者としては十分な利益が確保できなくなるので、台数を減らすような動きが出てくることになります。幸か不幸か東京は地価が高く、無駄に車庫を確保していると固定費だけがかかるという事になります。会社としては利益を確保できるように、台数を調整することが自然発生的に行われます。

つまり、ドライバーの生活ができる給料が確保でき、同時に会社の利益が確保できる売上になるように、タクシーの稼働台数が釣り合うようになっていく予想です。

これは大きな経済学的な観点での勝手な想像ですので、どこで収入の低下が止まるかはわかりませんけどね。働き手としてのドライバーが去るか、タクシー台数が減らされるか、どちらが先かというのはあるかもしれません。

それでも僕がタクシー運転手を続けているわけ

先行きが怪しいながらも、僕はもうしばらくはタクシー運転手を続けると思います。

コロナの影響を受けて倒産したり、失職したりする業種がありますが、仕事がゼロになるまでには至っていません。

観光バスなど、観光業では売上がほぼゼロになり、廃業するしかないところまで来ているので、そういった業種に比べたら、まだ都内のタクシー事業は良い方なのかもしれません。

私はひとり親で、高校生のこどもと暮らしています。家事やプライベートの用事など、仕事以外の些細な事をやるのに、タクシーの隔日勤務は都合が良いのです。

1回の出番でまとめて2日分働くことになるので、この働きかたは効率は良いと思います。

また、一般の企業での仕事では一度就職したら、なかなか仕事量の調整はできないと思います。

ちょっとこの期間は、給料が減ってもいいから仕事量を3分の2にしてください、なんていうのは通じないと思いますが、タクシー運転手では可能です。売上は下がりますが、手を抜いて乗務して、1〜2時間早めに上がるということをしても、会社からとやかく言われることは少ないです。

そうやってプライベートで忙しい時に仕事量や時間を調整できるのが、タクシードライバーのメリットではないでしょうか。

収入面では厳しい日々が続きますが、家族との時間を持つことができるので、この仕事はもう少し続けてみようと思ってます。

またコロナ前みたいに、活発に人々が動き回るようになるといいんですけどね、もしかしたら来年あたりに空前の好景気が来るかもしれませんよ。

著者プロフィール

霞 賢二
霞 賢二週刊運転手 編集長
タクシー運転手歴4年。
元システムエンジニア。
とにかく運転が好きで、試験場の飛び込みで二種免許を取得。その後家族の不幸があり、右往左往していたらいつの間にかタクシー運転手。こんな楽しい仕事があったのかと思っていたら、コロナ禍で苦戦中。

私生活ブログ https://orangekenji.blogspot.com/
仕事効率化等 https://orangekenji.com/